今日ご紹介するのは、以前からファンだったローソンの新浪剛史社長に関する1冊。
ファンゆえに、なかなか書感が書けませんでした…^^;
本書は日経BP社のM様よりご恵贈いただきました。遅くなってスミマセン…!!!
そもそも、新浪社長ってどんなヒト?という方のためにカンタンに説明しますと…
*慶應大学卒&ハーバード大学経営大学院卒
*三菱商事を経て、ローソン顧問に就任→2005年より社長CEO就任
という華やかな経歴の持ち主。
新聞やビジネス誌等でのインタビューを拝見する限り、ものすごく「体育会系」なニオイのするアグレッシブな経営者、というのがワタシの印象です。
いわゆる「カリスマ経営者」的な扱いをされることも多い新浪社長個人に比べ、実際に新浪社長がローソンに入ってから、何がどう変わったのか?に焦点が当たることは、これまであまり無かったのではないでしょうか。
(もちろん、コンビニ・流通業界においては注目されていらっしゃると思いますが、一般的に)
本書では、新浪社長の人柄に触れるに加え、これまでの10年間で行なわれたローソンの「改革」の中身について、詳しく解説されています。
そこで今回は、業界特有のデータや業務の詳細についての解説は省き、新浪社長の人柄+改革の内容の中でも、異業界や個人にも転用できそうな部分に焦点を当てて、ご紹介したいと思います。
<本書のポイント>
*チャーミングな「お兄ちゃん」
*ローソン改革のポイント:脱POS/おにぎり/SNS/オーナーの地位向上
*王者セブンイレブンとの差別化→局地戦で勝つ
lawson / Yuya Tamai
●チャーミングな「お兄ちゃん」
前述の通り、華やかなご経歴をもつ新浪社長。
「創業者ではない経営者」という共通点のあるスクウェア・エニックスの和田洋一社長は、新浪社長の人柄を指して、こういいます。
「チャーミングで、華がある人で、何人か集まった中にいると必ずリーダーっぽくなる人(P294)」と。
リーダーの中でも、先生タイプではなく「お兄ちゃん」みたいなリーダーなのだそうです。
本書の後半で、新浪社長の半生を振り返る部分があります。
そこに掲載されていた小学校の卒業文集を読むと、社長の幼馴染の方が「思いをとどめておけない」性格である、と言う片鱗を垣間見ることができます。
頭に思い浮かぶことを書くのに、筆が追いつかない、そんな印象を受けました。
ちなみに、仕事では筆ペンをよく使用しているそうです。
あふれる感情を表現するのにピッタリなのだろう、と著者はいいます。なるほど。
詳細な内容は本書を読んでいただくとして、一貫して伝わってくるのが「信じて任せる」姿勢です。
「本当はチームワークが苦手」とおっしゃる新浪社長。
自身が独裁者にならないよう、2011年から、ローソンの事業を3本にし、それぞれにCEOを置く、という集団指導体制に移行されているそうで、今後どういう道に進んでいかれるのか、一ファンとして非常に楽しみです。
Lawson Station sign / Jephso
●ローソン改革のポイント
ローソン改革の話に戻しましょう。
本書では、かなり細かいデータや業界の話が登場します。
「コンビニ経営者の仕事」と一口に言ってもいろいろありますが、なるほど、こういう仕事も必要なのね、とワタシ自身は楽しく読ませていただきました。
ワタシは改革のポイントとして、
「脱POS」「親会社ダイエーの影」「おにぎりでの成功体験」
「SNSの活用」「オーナーの地位向上」
に分けて読書メモを作りましたが、ココでは「オーナーの地位向上」に絞って、改革のキモである「権限移譲」についてご紹介します。
コンビニは、直営店と加盟店の大きく2つに分かれます。
直営店は読んで字のごとく、ローソン本体が直接運営をする店舗。
加盟店は、いわゆるフランチャイズで運営されている店舗。
その加盟店にアドバイスするのがスーパーバイザー(SV)と呼ばれる職種の人です。
SVはITを駆使して、様々なデータを元にFCオーナーに店舗運営の指導・管理を行います。
ローソンでは、これまでSVが握っていたITツールをはじめ、様々な運営ツールを、特定の実績を上げているオーナー(マネジメント・オーナー=MO)に渡してしまう、という方針をとっているそうです。
※ローソンでは6000人を超えるオーナーがいる中で、MOは約60人とのこと。上位1%ですね。
この「MOへの権限移譲」により、SVは各店舗を巡回する必要がなくなったそう。
コレ、業界ではかなり画期的な試みなのでは?と感じます。
言葉は悪いけど、本部が独占していた武器を、加盟店に手渡してしまうわけですから。
加盟店への権限移譲と同様に、ローソン本体でも段階的に分権を進めてきた新浪社長。
まず支社を作り、その下にさらに支店を作り、本部の権限を一部移譲していきます。
このことによって、それまで本部の方針に従っていた地方からも、イノベーションが生まれる「考える」組織になりました(事例は本書をご参照ください)
これまでセオリーだと思われていた「中央集権」から、真逆の「地方分権」へコマを進めた―コレがローソン改革のキモである、とワタシは感じました。
京都ローソン / sota-k
●王者セブンイレブンとの差別化
コレはもう前項でほとんど述べてしまったのですが、セブンは完全なる「中央集権」の文化です。
セブンイレブンでは、全国のOFC(オペレーション・フィールド・カウンセラー/ローソンのSVとほぼ同義)が、毎週1回、本部会議に集まる、と聞けば、その凄まじさは想像がつくでしょうか。
本書によると、セブンのOFCは約1500人いるそうですが、全国から毎週全員が本社に集合する、と聞いて、出張費やOFCの人件費をはじめとする膨大なコストに身震いがしました。
セブンの徹底的な「均質」文化とは逆に、ローソンがとった戦略は「多様性」を活かすこと。
コンビニの主力顧客である「20~30代男性」を細分化して戦略を立てるだけでなく、高齢者・女性・スポーツ好き等、様々な顧客を想定し、店舗展開をしているローソン。
確かに、ナチュラルローソンや、ローソンストア100、調剤併設型の店舗など、様々な形態の店舗がありますよね。コレが「多様性」ということ。
王者セブンイレブンの真似はできない。
セブンはコンビニの元祖であり、その手法は投資リスクを負いながら自らが作り上げた仕組みだ。新浪社長が就任した当初、社内にはそんな諦めにも似たムードが漂っていたといいます。
形だけマネしようとしてもできるものではない。
苦心して何とかマネをしても、その頃にはセブンはさらに一歩先へと進んでいる。
追っても追いつけない者を追えと言われ続ける。
現場を苛むのは、その無力感だった。(P83~84)
そんな中、新浪社長は「言葉」で「弱み」を実は潜在的な「強み」である、と言い続けたそうです。それが現実になるまで。
トップがブレずに同じことを言い続け、それに沿った戦略・戦術を次々と実施することで、現場の雰囲気も徐々に変わっていった、と本書にありますが、並大抵のことじゃなかったんだろうな…と想像します。
今後、ローソンは主力である国内コンビニ事業に加え、海外展開や、エンタメ・EC部門の強化もしていくとのこと。
そのために、上記3つの分野それぞれにCEOを置いたそうです。
個人的には元リヴァンプの玉塚さんが、新浪社長の改革の後、国内コンビニ事業をどのように舵取りしていくのか、非常に楽しみにしています。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
■編集後記■
いやー、やっぱり企業モノは難しい!
でも、久しぶりに前職で関わっていた業界のことを勉強できて、とても楽しかったです。
久しぶりにフォトリーディングを使って読んで、マインドマップも書いてみました。
今年は書感をガンガン書きたいと思ってるので、徐々にスピード上げていきまっす!
<目次>
第1章 試された「分権経営」
第2章 瞑想する経営と上場の「傷跡」
第3章 一番うまいおにぎりを作ろう
第4章 「田舎コンビニ」を強みに転じる
第5章 オーナーの地位を挙げましょう
第6章 加盟店オーナーにも「分権」
第7章 「個」n解きほぐされた消費をつかむ
第8章 「強さ」のために組み替える
第9章 僕が独裁者にならないために
第10章 人間・新浪剛史
インタビュー:「起業家ではない経営者」という同類から